妊婦の夏を振り返って

 また夏がやってくる。去年の夏、私は妊婦だった。電車を待っているホームで、暑くて、汗をだらだらかいていた。あんまり過酷な環境に身を置くと、子宮の中で赤ちゃんも過酷な環境になっちゃうからいけないなと思った。足も辛かった。むくんだり、歩くと痛くなったり。夫がマッサージしてくれた。そう、あの時は、夫婦仲良くこの子を育てていくんだと信じていた。

 いま隣に夫はいない。小さいけど、これでもだいぶ大きくなった赤ちゃんがいる。横向きに寝て、コロコロと寝返りをうっている。たまにうつ伏せになると、元に戻れないらしく、突然死のリスクも考えて私が仰向けに戻してあげる。そうすると少し迷惑そうな表情をして、うーんと伸びをして、またスース―と寝息をたてて寝る。癒されるとかじゃなくて、もうこの子のために必死に生きるのが当たり前。必死といっても、しょっちゅう笑いが溢れるんだから、何の問題もない。たっちゃん(0歳8か月)の一挙手一投足に頬が緩む。一生懸命タンスに近付いて引き出しをうんしょと引っ張り出してしまう姿に。隙あらばお粥に手を突っ込もうとしてくる離乳食タイム。「ほにゃほにゃ」としゃべってみたり、「あうー」と叫んでみたり。どんなに仕事で疲れても、帰り道はいそいそと足取りも軽くなる。たっちゃんのニコニコ顔を想像して。

 妊娠中、育児で疲れても、子どもを可愛いと思えるかななんて心配したりもした。なんなら、心の底から子どもを愛し続けられるのかななんて心配もしてみた。何の心配もいらなかった。たっちゃんの愛され力すごい。

 私には愛され力が足りなかったのかもしれない。親に対してじゃなくて、夫に対して。ただ必死に子育てを始めただけ。

 妊娠中の夏、夫が期待したより思いやりを示してくれない気がして、寂しく感じたりした。でも、お腹に我が子を抱えて幸せだった。今も同じ。たっちゃんがいて、お母さんはとっても幸せ。たっちゃんの声で目が覚めて、ふと時計を見たら早朝4時でも、今日もたっちゃんとの一日が始まって嬉しいなと思う。たっちゃんのニコニコ笑顔をみて、お母さんも自然に笑顔がこぼれちゃう。