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母とSiri

 日曜日、母は久しぶりの外出。平日はずっと、フルタイムで働く私の赤ちゃんの子守りをしてくれていて、申し訳ない限りだ。

 「あなたの電話に『今日は寒いですか?』って聞いてくれない?」と、支度中の母が言う。「あなたの電話に聞くのが、一番早いから」と。「そんなこと答えてくれるかなあ」と、私は赤ちゃんと遊びながら、返事する。「この間、答えてくれたわよ」と母に言われてびっくりする。パソコンの使えない母が、らくらくホンで電話をかけれるけど、着信履歴をみてかけ返すということはできない母が、私よりSiriを使っているなんて!

 なぜ私のSiriを、私が知らない所で母が使えるかと言えば、私の赤ちゃんがSiriを呼び出せるからだ。私の赤ちゃんだって、まだ1歳3か月のダウン症児なのに、iPhoneのホームボタンを長押しするという技を覚えた。母に頼まれると、それをするという、言語理解もできている不思議(母には長押しという概念が入力されないらしく、自分ではいまだにできない)。

 Siriさんはと言えば、「今日は寒くないです」と言いながら、現在地の天気予報を表示する。最高13度、最低5度。「寒いじゃん」と私と母は首をかしげる。「最低温度がこの季節にしては高いかしら」と、母はSiriさんの胸の内を推測する。

 そういえば、うちの子はまだ有意語をしゃべれなくて、「あぶぶぶー」とか絵に描いたような喃語をしゃべってるんだけど、この間Siriさんが「アンパンマン」と表示してきて焦った。うちの子、「アンパンマン」って言ったの? 赤ちゃんがしゃべりそうな言葉だけに、本当かもしれない、どうしよう。ダウン症の子は構音障害もあるから、本当はもう初語が出てるのに、親が聞き取ってないだけだったりして。アンパンマン、好きそうだけど。本当なの?

 母と私と赤ちゃんとSiri。この奇妙な生活。夫と上手くいかなくなった悲劇を棚上げしたまま、目の前の現実に毎日振り回されている。